1.1.2 仮想サーバマネージャによる仮想化システムの構築・運用の概要
仮想化システムを構築して運用する場合は,まず,基盤となるアプリケーション実行環境を構築して運用するための運用環境を構築します。運用環境には,仮想サーバマネージャを構築します。次に,運用環境の仮想サーバマネージャを使用して,アプリケーション実行環境(アプリケーションサーバ)を構築し,業務の運用を開始します。
ここでは,仮想化システムの構築および運用で使用する仮想サーバマネージャの役割について説明します。また,仮想化システムを構成するプロセスについても説明します。
(1) 仮想サーバマネージャの役割
仮想サーバマネージャは,運用環境の仮想化システム管理用サーバマシンに配置します。仮想サーバマネージャを使用すると,管理ユニット単位に,同じ業務を実行するアプリケーションサーバ(アプリケーション実行環境)を複数の仮想サーバに,一括して構築したり運用したりできます。
仮想サーバマネージャを使用して構築する場合,あらかじめ,構築するアプリケーションサーバの情報を設定した定義ファイルと,アプリケーションサーバで動作するアプリケーションを用意して,これらを一つのディレクトリにまとめます。まとめたものを使用してアプリケーションサーバを構築するため,構築後,すぐに運用を開始できます。アプリケーションサーバの定義ファイルには,アプリケーションサーバに配置する論理サーバ(Webサーバ,J2EEサーバ,PRFデーモンなどのプロセス)の構成や,それらの環境設定情報,リソースを使用するための環境設定情報などを定義します。アプリケーションサーバに配置する論理サーバの構成をティアといいます。ティアの情報や構成は,管理ユニットで管理されます。
仮想サーバマネージャによる一括構築の流れを次の図に示します。
仮想サーバマネージャ内にあらかじめ作成した管理ユニットに,アプリケーションサーバの定義ファイルや実行するアプリケーションなどを配置した定義ディレクトリを取り込んで,仮想サーバマネージャ上に情報モデルを生成します。生成した情報モデルを基に,複数の仮想サーバに対してアプリケーションサーバを一括して構築したり,変更した環境を一括して反映したりします。定義ディレクトリは,ティアごとに作成するアプリケーションサーバを構築するために必要なファイルの情報(ティア別定義ディレクトリという)を,管理ユニット単位に一つのディレクトリとしてまとめたものです。定義ディレクトリの構造については,「5.2.4 管理ユニットへの定義ディレクトリの取り込み」を参照してください。なお,仮想化システムで動作できるアプリケーションは,オンライン業務を実行するJ2EEアプリケーションです。
(2) 管理ユニットおよび仮想サーバグループと仮想サーバの関係
管理ユニットは,仮想化環境にある仮想サーバから,同じ業務を実行するものをグループ化します。管理ユニットに属する仮想サーバは,管理ユニットで管理するティアの構成でグループ化されます。一つの仮想サーバは1種類のティアに割り当てられます。ティアの構成に対応したグループを仮想サーバグループといいます。複数のティアと仮想サーバグループおよび仮想サーバの関係を次の図に示します。
この図に示すように,ティアxとティアyを管理する管理ユニットでは,ティアxに割り当てられた仮想サーバと,ティアyに割り当てられた仮想サーバで構成されます。それぞれのティアの仮想サーバは,仮想サーバグループでティアxとティアyの組み合わせ(構成)を定義することで関連づけられます。
仮想サーバグループと仮想サーバの関係はファイルで管理し,そのファイルの情報を基に仮想サーバを管理ユニットに登録します。このファイルを仮想サーバグループ情報ファイルといいます。仮想サーバグループ情報ファイルには,仮想サーバグループの名称や,仮想サーバのIPアドレス,仮想サーバを割り当てるティア,複数ティア間の関連づけなどの情報を定義します。なお,ティアの情報は,ティア別定義ディレクトリ内の簡易構築定義ファイルで定義します。
ティアの関連づけに従った仮想サーバの構築の仕組みを次の図に示します。ここでは,管理ユニットで管理するティアは,http-tierとj2ee-tierの2種類とします。
ティア別定義ディレクトリ内の簡易構築定義ファイルのティアの情報と,仮想サーバグループ情報ファイルのティアの関連づけを基に,仮想サーバはティアごとに構築されます。この図の場合,各仮想サーバグループは,http-tierで構築される仮想サーバ(Webサーバ)と,j2ee-tierで構築される仮想サーバ(J2EEサーバ)で構成されます。
管理ユニットおよび仮想サーバグループに対する操作と操作対象の仮想サーバを次の図に示します。ここでは,管理ユニットAとCでは1種類のティア,管理ユニットBでは2種類のティアを管理しているとして説明します。
仮想化環境にある仮想サーバは,管理ユニットおよび仮想サーバグループの単位にグループ化され,システム構築者から指示された操作(a〜c)はその単位で実行されます。
なお,同じ管理ユニットに属する仮想サーバは,同じ種類のハイパーバイザ上に作成されている必要があります。同一の管理ユニット内では,ハイパーバイザの種類を混在させた運用はできません。
(3) 仮想化システムを構成するプロセス
仮想化システムを構成するプロセスとプロセス間の操作の流れを次の図に示します。ここでは,アプリケーションサーバにWebサーバ,J2EEサーバおよびPRFデーモンに対応する論理サーバを配置するティア(combined-tier)で,負荷分散機を利用する場合の例を示します。
各プロセスの主な機能について説明します。
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仮想サーバマネージャ
各仮想サーバに配置したサーバ通信エージェントに指示を出して,仮想化システム全体の運用管理を実行するためのプロセスです。
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負荷分散機のプロセス
複数または一つの仮想サーバにリクエストを送信するための機能を持つプロセスです。仮想化システムでは,仮想サーバマネージャから制御できます。
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サーバ通信エージェント
仮想サーバ上のアプリケーションサーバを仮想サーバマネージャからセットアップおよび操作するためのエージェント機能を持つプロセスです。
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Management Server
運用管理エージェントに指示を出して,仮想サーバ上に構築されているアプリケーションサーバ全体の運用管理を実行するためのプロセスです。
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運用管理エージェント
論理サーバ(Webサーバ,J2EEサーバおよびPRFデーモン(パフォーマンストレーサ))を起動したり,設定ファイルを更新したりするエージェント機能を持つプロセスです。
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Webサーバ
Webブラウザからのリクエスト受信,およびWebブラウザへのデータ送信に関連する処理を実行するプロセス群です。
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J2EEサーバ
J2EEアプリケーションの実行基盤となるプロセスです。
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PRFデーモン(パフォーマンストレーサ)
アプリケーションサーバの性能解析トレースを出力するためのI/Oプロセスです。
管理ユニットで管理できるティアの種類を次の表に示します。
ティアの種類 |
ティアに配置できるプロセス(論理サーバ) |
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combined-tier |
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http-tier |
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j2ee-tier |
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ctm-tier |
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仮想化システムでは,これらのティアを組み合わせてシステムを構築できます。仮想化システムで構築できるティアの構成を次に示します。
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combined-tier構成
ホスト単位管理モデルでアプリケーション(業務)を運用するためのティア。一つの管理ユニットで管理します。
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http-tierとj2ee-tier構成
Webサーバをアプリケーション(業務)と別のホストに配置して運用するためのティア。http-tierとj2ee-tierの組み合わせを一つの管理ユニットで管理します。
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combined-tierとj2ee-tier構成
フロントエンドシステム(サーブレットなど)とバックエンドシステム(EJBなど)を分離して運用するためのティア。combined-tierとj2ee-tierの組み合わせを一つの管理ユニットで管理します。
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combined-tierとctm-tier構成
CTMを使用して統合ネーミングスケジューラサーバモデルで運用するためのティア。フロントエンドシステム(combined-tier),統合ネーミングスケジューラサーバ(ctm-tier),バックエンドシステム(ctm-tier)ごとに,それぞれ別の管理ユニットで管理します。
なお,このマニュアルで説明する構築および運用の手順では,combined-tier構成で説明します。