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JP1 Version 12 JP1/Service Support 構築・運用ガイド


1.1.1 ITサービス管理でのサービスサポートの役割

近年,IT技術の進歩は著しく,企業ビジネスでのIT資産の活用は,必要不可欠なものとなっています。ハードウェアやソフトウェア,それらをつなぐネットワークといったITシステムは急速に普及し,年々大規模化・複雑化しています。これに合わせ,企業ビジネスやサービスの遂行を支援するために,ITシステムの運用を,投資するコストに見合った品質で管理するITサービス管理という考え方があります。

ITサービス管理とは,ITシステムの管理に加え,システムを利用するユーザーとの関係,運用に携わるスタッフやリソースまでをプロセス(一つの活動)として管理する考え方です。

ITILでは,ITサービス管理の中心となるプロセスを,サービスサポートおよびサービスデリバリというカテゴリーで定義しています。サービスサポートは,システムを利用しているユーザーからの問い合わせやシステム障害など,日々発生する問題をどのように素早く対処していくかを目指しているものです。サービスデリバリは,一貫したサービスを中長期にわたり,ユーザーに提供することを目指しているものです。ここでは,サービスサポートについて詳しく説明していきます。

通常,ITシステムの日々の運用では,システムを利用するユーザーからの問い合わせやシステム障害に対し,迅速な対応が求められます。しかし,回避策を早急に提示する必要がある一方で,根本原因の究明と,必要に応じてシステム変更などの抜本的な対策を立てる必要もあります。これらを単一部署で実施しようとすると,かえって無理が生じ,対応の遅れが発生する要因となることがあります。

作業の効率化,アウトプットの迅速化を図るため,ユーザーへの回避策を提示するプロセス,根本原因を調査,解決策を提示するプロセス,システムの変更の審議,計画立案をするプロセスなど,作業内容に合わせてプロセスを分け,問題を解決する手法があります。

ITILに当てはめると次の図のようになります。

図1‒1 ITILサービスサポートでの作業の概要

[図データ]

ITILで定義されている各プロセスについて次に説明します。

インシデント管理

ユーザーからの問い合わせやシステムの正常な運用を妨げる事象をインシデントとして管理します。問い合わせに対しては適切な回答を,また,事象に対しては回避策を早急に提示します。

インシデント管理プロセスで対応困難なものについては問題管理プロセスに対応を依頼します。

問題管理

問い合わせやシステム障害などを機に,原因追求が必要と判断したものを問題点として管理します。問題点の根本原因を調査し,恒久的な解決策を導き出します。

このとき,インシデント管理プロセスへのフィードバックが必要であればインシデント管理プロセスに対応を依頼します。また,ユーザーに提供しているドキュメントやシステム自体に変更が必要であれば,変更要求(RFC)を発行し,変更管理プロセスに対応を依頼します。

変更管理

変更要求の発行を受け,変更による障害発生リスクや業務への影響度を考慮に入れた上で,変更内容の審議と変更計画の立案をします。この審議,変更計画の立案には,システム構築,運用に携わる有識者やシステムの利用ユーザーなどが加わります。これをITILでは変更諮問委員会(CAB)メンバーと呼び,審議,変更計画の立案をする会議を変更諮問委員会(CAB)会議と呼びます。

会議の結果,変更計画が決まれば,リリース管理プロセスに連絡,対応を依頼します。また,問題管理プロセスに,変更要求の結果を連絡します。

リリース管理

変更計画に基づき,対象システムに対する実装計画を立てます。また,実装計画に基づき,構築,テスト,実装を実施します。

実装したあとは,変更管理プロセス,構成管理プロセスに実装したことを連絡します。

構成管理

管理の対象となっているシステムの構成情報を管理します。構成情報には,ハードウェア,ソフトウェアなどの情報が蓄積・関連づけられ,ほかのプロセスから必要に応じて参照されます。

なお,リリース管理プロセスによってシステム変更が実施された場合には,構成管理プロセスの対応者が最新の構成情報に更新する必要があります。