3.1.6 ネットワークに負荷を掛けない運用方法
JP1/IT Desktop Management 2では、配布するソフトウェアや、さまざまな管理情報を、ネットワークを経由して転送します。このため、より効率的な運用のためには、ネットワークの混み合う時間帯を避けてジョブを実行するなど、ネットワークにできるだけ負荷を掛けない工夫が必要です。JP1/IT Desktop Management 2には、セットアップ時にネットワークのトラフィックを調整したり、インストールするソフトウェアを分割して配布したりするなど、ネットワークの負荷を軽減するための幾つかの機能があります。この節では、ネットワークの負荷を小さくして効率良くソフトウェアを配布する方法を紹介します。なお、JP1/IT Desktop Management 2でのソフトウェアの配布を効果的に行うためには、配布管理システムだけでなく、管理対象のコンピュータ側での設定や操作も必要です。管理対象のコンピュータでのユーザの作業については、「12. エージェントを操作する」を参照してください。
- 〈この項の構成〉
(1) 中継システムの利用
リモートインストール時に、効率的にパッケージを転送するためには、中継システムの役割を理解しておく必要があります。
中継システムは、配布管理システムに直接接続する管理対象のコンピュータの数を減らして負荷を分散させるだけでなく、パッケージのコピーを作成・保管することで、中継システム下の管理対象のコンピュータへ効率的にパッケージを転送します。また、「中継までのパッケージの転送」ジョブと「パッケージのインストール」ジョブを組み合わせて、2段階に分けてパッケージを転送できます。
リモートインストール時の中継システムの動作を次の図に示します。
「中継までのパッケージの転送」ジョブは、中継システムに保管されるため、保管されている間は同一のパッケージであれば配布管理システムから再配布されることはありません。パッケージの保管期限はパッケージング時に指定できます。
(2) 同時に接続するホストの台数の調整
契約回線が少ない場合や、ネットワークに対するトラフィックを掛けられない場合などは、同時に接続するホストの台数をチューニングする必要があります。配布管理システムで、同時に接続するホストの台数を調整するには、次の方法があります。
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セットアップまたはエージェント設定で調整する。
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ジョブ実行時にユーザの運用で調整する。
(a) セットアップまたはエージェント設定で調整する
配布管理システムでは、セットアップで、ネットワークのトラフィックを制御できます。メニューから[セットアップ]を選択してセットアップ画面を起動し、[リモートインストールマネージャを使用した配布のセットアップ]画面の[サーバカスタマイズオプション]パネルを表示してください。中継システムの場合は、エージェント設定の[中継システムの設定]で設定します。
同時に接続するホストの台数を調整する項目は[ジョブを同時実行するJP1/IT Desktop Management 2 - Agent数](中継システムの場合はエージェント設定の[中継システムの設定]−[中継システムの処理の設定]の[同時実行する数を指定してジョブを実行する])です。
配布管理システムが、一度に多数のコンピュータを対象としてジョブを実行すると、ネットワークの負荷が非常に大きくなります。そこで、[ジョブを同時実行するJP1/IT Desktop Management 2 - Agent数]を設定すると、同時に処理する下位ホストの数を制限できます。例えば、[ジョブを同時実行するJP1/IT Desktop Management 2 - Agent数]を20台に設定した場合、300台のコンピュータに対してリモートインストールを実行すると、内部的には、20台ずつ15回に分けてジョブが実行されます。
(b) ユーザの運用で調整する
セットアップ時に、PCの性能、ネットワーク構成、動作環境などを考慮した値を設定しておくことで、ほとんどの場合十分な信頼性を得ることができます。しかし、配布するデータ量が大きい場合には、配布するデータ量を制御しても、ネットワークの負荷が高くなるおそれがあるので、最終的にはユーザの運用によって調整する必要があります。
■ ジョブの対象コンピュータ数の調整
例えば、5メガバイトのパッケージを64Kbpsの回線で送信する場合、回線効率を60%とすると、約18分掛かります。これが、配布管理システムと中継システム、および中継システムと管理対象のコンピュータの間の接続回線上を並行して流れることになります。この数値を基に、接続回線の負荷を考慮して、1つのジョブで配布対象とするコンピュータ数を決定してください。
■ 同時に接続する中継システム数の調整
配布管理システムに、同時に多数の中継システムが接続しないようにするためには、ジョブを分割して実行することをお勧めします。ユーザに負担を掛ける運用方法ですが、確実にネットワークの負荷を軽減できます。
まず、ネットワークのトラフィックなどを考慮して、配布管理システムに同時に接続する中継システムを決めます。次に、同時に接続する中継システム下のすべての管理対象のコンピュータを1つのグループとして分類します。ジョブを実行するときは、これらのグループごとに一定の間隔(1つのジョブの処理に掛かる時間)を空けたスケジュールで実行します。これによって、配布管理システムに、同時に多数の中継システムが接続することを防ぐことができます。
(3) スケジュール配布
リモートインストールのジョブを作成するとき、ジョブの実行日時を指定できます。これがパッケージの転送日時となります。ネットワークが比較的空いている夜間などを指定しておくと、効率良く転送できます。
また、中継システムまでのパッケージの転送と、中継システムから管理対象のコンピュータへの転送を別のジョブで実行すると、配布管理システム−中継システム間、中継システム−管理対象のコンピュータ間のパッケージの転送時刻を、別々に設定できます。
転送するデータ量を減らすのではなく、転送時間を工夫することで、ネットワークに掛かる負荷を軽減できます。
なお、配布先のPCが省電力モードの状態のとき、JP1/IT Desktop Management 2 - Agent(エージェント)は動作しないため、ソフトウェアの配布が実行されません。配布先のPCに省電力モード対応のPCがある場合、ジョブのスケジュールを指定するときは注意が必要です。
(4) パッケージの分割配布
コンピュータにインストールするソフトウェアを一度に配布するのではなく、分割して配布する方法があります。これを分割配布と呼びます。分割配布を使用すると次のメリットがあります。
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大容量のパッケージの配布時に、ネットワークの負荷を軽減して配布できる。
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分割したパッケージの間には、インターバル(転送休止時間)を置くことができる。
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配布する経路の途中に中継システムや管理用中継サーバがある場合は、パッケージの分割サイズやインターバルの時間を変更できる。
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分割配布の途中で配布を完了したい場合は、分割配布の強制完了で未転送のパッケージを一括して転送(通常配布)し、配布を完了できる。
パッケージの分割配布を利用したソフトウェアの配布を次の図に示します。
(5) ジョブのマルチキャスト配布
通常のソフトウェアの配布では、コンピュータ数が増加すると、上位システムから送信するパケット数も増加します。このパケットの送信量を削減するために、上位システムから1ジョブ分のパケットを送信するだけで、指定した多数のコンピュータへソフトウェアを配布できる方法があります。これを、マルチキャスト配布と呼びます。
ソフトウェアの配布時に、マルチキャスト配布を指定すると、パケットの送信量が削減できます。そのため、配布時間を短縮したり、ネットワークの負荷を軽減したりできます。マルチキャスト配布は、次の場合に効果的です。
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同時に多数のコンピュータにソフトウェアを配布する場合
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大容量のソフトウェアを配布する場合
マルチキャスト配布を利用したソフトウェアの配布を次の図に示します。マルチキャスト配布は、コンピュータと、その接続先の上位システム間だけで有効です。
マルチキャスト配布をするためのシステム構成と設定については、「3.2 マルチキャスト配布をするための設定」を参照してください。
(6) ジョブの中断と再開
リモートインストール、またはパッケージ転送中のホストに対して、一時的にジョブの実行を中断できます。例えば、業務停止中に実行する予定のジョブが業務開始までに完了しなかった場合に、実行中のジョブを中断し、業務終了後に再開できます。
また、ジョブの中断中に、特定のジョブだけを中断させないで配布することもできます。例えば、ウィルス定義ファイルを急いで配布したい場合に、ほかの配布ジョブを中断して、ウィルス定義ファイルを先に配布できます。
(a) ジョブの中断と再開の仕組み
ジョブを中断または再開するには、次の方法があります。
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配布管理システムから中継システムおよび管理用中継サーバに中断または再開を指示する。
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配布管理システム自身に対して中断または再開を指示する。
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配布管理システムでdcmsuspコマンドを実行する。
dcmsuspコマンドについては、「14.17 dcmsusp.exe(ファイル転送の中断と再開)」を参照してください。
なお、中断できるファイル転送の単位は、4,096バイトです。
■ 配布管理システムから中継システムおよび管理用中継サーバに中断または再開を指示する
配布管理システムから「ファイル転送の中断」ジョブおよび「ファイル転送の再開」ジョブを実行して指示します。これらのジョブのあて先には、ジョブを中断したいホストが直接接続している上位システムを指定します。
「ファイル転送の中断」ジョブ実行時のシステムの動作を次の図に示します。
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配布管理システムから中継システムおよび管理用中継サーバに対して「ファイル転送の中断」ジョブを実行する。
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「ファイル転送の中断」ジョブのあて先の中継システムおよび管理用中継サーバが「中断状態」になる。
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中断状態の中継システムおよび管理用中継サーバと、その直下のシステムとの間のファイル転送が中断され、下位システムあてのジョブの実行状態が「中断中」になる。
「ファイル転送の再開」ジョブ実行時のシステムの動作を次の図に示します。
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配布管理システムから中断状態の中継システムおよび管理用中継サーバに対して「ファイル転送の再開」ジョブを実行する。
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「ファイル転送の再開」ジョブのあて先の中継システムおよび管理用中継サーバで中断状態が解除され、下位システムあてのジョブの実行状態が「再開中」になる。
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中断されていたファイル転送が再開され、ジョブの実行状態が「実行中」に戻る。
■ 配布管理システム自身に対して中断または再開を指示する
リモートインストールマネージャで、自システムに対して中断または再開を指示できます。リモートインストールマネージャから指示する場合は、[実行]メニューの[ファイル転送の中断/再開]から[中断させる]または[再開させる]を選択してください。
自システムに対する中断または再開時のシステムの動作を次の図に示します。
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リモートインストールマネージャのメニューから[中断させる]を選択する。
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自システムが「中断状態」になる。
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自システムと直下のシステムとの間のファイル転送が中断され、下位システムあてのジョブの実行状態が「中断中」になる。
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リモートインストールマネージャのメニューから[再開させる]を選択する。
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自システムの中断状態が解除され、下位システムあてのジョブの実行状態が「再開中」になる。
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中断されていたファイル転送が再開され、ジョブの実行状態が「実行中」に戻る。
(b) 中断中にジョブを配布する
あて先の直上のシステムが中断状態になっていても、ファイル転送を中断させないでジョブを配布できます。ジョブの作成時に、[ジョブの作成]ダイアログボックスの[ジョブの配布属性]パネルで、「中断中でも配布する」を選択してください。
中断中のジョブの配布を次の図に示します。
ジョブの中断時には、システムが中断状態になった時点でその直下のシステムとのファイル転送が中断されますが、「中断中でも配布する」を選択すると、そのジョブのファイル転送が中断されなくなります。
(7) クライアント制御の利用
ネットワーク経由で、手元のPCから離れた場所にあるPCを起動したり、シャットダウンしたりする機能があります。この機能をクライアント制御と呼びます。この機能を使って、JP1/IT Desktop Management 2では、深夜や休日などの電源が入っていない状態のPCに対してソフトウェアをリモートインストールできます。
ただし、この機能を利用するには、PCがAMTまたはWake on LANに対応し、さらに自動シャットダウンに対応していることが必要です。また、UNIXエージェントの場合、ジョブ実行後にシャットダウンすることはできません。加えて、UNIXエージェント、Macエージェントに適用する「コンピュータ(UNIX)のシステム情報の取得」ジョブ、「コンピュータ(UNIX)のソフトウェア情報の取得」ジョブでは、シャットダウンの指定はできません。
クライアント制御を利用したリモートインストールの概要を次の図に示します。
クライアント制御を利用したリモートインストールの注意事項については、「3.3 クライアント制御を利用するための設定」を参照してください。
(8) オフラインインストールの利用
JP1/IT Desktop Management 2 - AgentがインストールされたスタンドアロンPC(オフラインマシン)に対して、ネットワークを介さないでソフトウェアをインストール(オフラインインストール)できます。
オフラインインストールは、配布管理システムでインストールに必要なファイルを媒体に格納し、その媒体をオフラインマシンに搬送して実行します。
オフラインインストールの実行方法の詳細については、「7.3.4 オフラインインストール」を参照してください。