付録A.1 サイジングを始める前に
ここでは,サイジングを始める前に,確認,準備しておくことについて説明します。
(1) サイジング指標の選択
仮想化システムを構成する仮想サーバの構成の決定に必要なサイジング指標を決定します。サイジング指標は,サイジングで考慮するマシンリソースのことで,次のものがあります。
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CPU性能(単位:MIPS,FLOPS,SpecIntなど)
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メモリ使用量(単位:MB)
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ディスクI/O性能(単位:MB/s)
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ディスク使用量(単位:MB)
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ネットワークI/O性能(単位:Mbit/s)
これらのサイジング指標のうち,必要なものだけを選択します。例えば,仮想化環境のディスク容量が十分ある場合は,ディスク使用量をサイジング指標から除外できます。
また,仮想化システムでは,1台の物理マシンに対して,複数の仮想マシン(仮想サーバ)が配置されます。CPUとメモリだけでなく,ディスクとネットワークも複数の仮想マシンから共有されます。このため,ディスクとネットワークがボトルネックになる可能性が高くなります。
(2) 要求リソースの考え方
要求リソースは,スケールアウトして分割可能なリソース(分割可能リソース)とスケールアウトしても分割できないリソース(分割不可能リソース)から構成されます。例えば,ディスク使用量から,アクセスログサイズと製品のインストールサイズを考えるとします。マシン数を増やすと,1台当たりの処理件数が減少します。アクセスログサイズは1台当たりの処理件数に応じて減少するので,分割可能リソースとなります。一方,製品のインストールサイズはすべてのマシンに同じだけ必要なので分割不可能リソースとなります。
ここでは,要求リソース(16)の内訳が,分割可能リソースのリソース量が12,分割不可能リソースのリソース量が4とします。マシン数の増加と,システム全体のマシンリソースの変化を次の図に示します。
図に示すように,マシン数を増やすと,1台当たりの分割可能リソースは減少しますが,1台当たりの分割不可能リソースは変わりません。このため,1台当たりのリソース量は減少しても,システム全体として必要なマシンリソースが増加します。要求リソースは,これらのトレードオフ関係(競合関係)を考慮してサイジングします。
また,1台のマシンでは,リソース量のうち,分割不可能リソースを超えた分を分割可能リソースとして負担できます。例えば,マシンのリソース量が「11」で,分割不可能リソースが「4」とすると,「7」の分割可能リソースを負担できます。
分割可能リソースと分割不可能リソースを考慮すると,マシン数の増加(スケールアウト)と,マシンリソースの増加(スケールアップ)を適切に組み合わせたマシン構成を実現できます。
(3) 仮想化環境のオーバーヘッドの把握
仮想化システムでは,物理マシン上で動作する複数のOSの切り替え処理などでオーバーヘッドが発生して,パフォーマンスが低下するという問題があります。このため,仮想化環境で必要なオーバーヘッドとして,ハイパーバイザのオーバーヘッドを考慮する必要があります。ハイパーバイザのオーバーヘッドは,使用するハイパーバイザの種類,使用するハードウェアの仮想化技術の実装状況など,仮想化システムの環境によって大きく変化します。
ハイパーバイザのオーバーヘッドと,仮想化システムの環境によるオーバーヘッドの差を考慮してサイジングを実施してください。
仮想化環境のオーバーヘッドの例を次の表に示します。
サイジング指標 |
オーバーヘッド(係数)の例 |
オーバーヘッド設定時の注意点 |
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CPU性能 |
1.2 |
ハードウェアの仮想化技術(AMD-V,Intel VT)の実装の有無や,ハイパーバイザによって変動します。 |
メモリ使用量 |
1.2 |
ハイパーバイザによって変動します。 |
ディスクI/O性能 |
1.2 |
ハードウェアの仮想化技術(AMD-V,Intel VT)の実装の有無や,ハイパーバイザによって変動します。 |
ネットワークI/O性能 |
1.2 |