5.2.5 バックアップ強化機能による組み込みDBのバックアップとリカバリー
JP1/AJS3のデータベース(組み込みDB)は,障害に備えてすべてのテーブルのバックアップデータを取得できます。組み込みDBに格納されているデータの詳細については,「2.6 JP1/AJS3のデータベースについて検討する」を参照してください。組み込みDBに障害が発生した場合は,バックアップデータを使用することで,組み込みDBをバックアップデータ取得時点の状態に回復できます。
- 〈この項の構成〉
(1) バックアップ強化機能を使用したバックアップ・リカバリーの特徴
バックアップ強化機能を有効にした環境では,JP1/AJS3の運用中に組み込みDBのデータを一括でバックアップできます。
リカバリー時は,ユニット,スケジュール,カレンダーなどの定義に加えて,実行登録情報,ジョブやジョブネットの実行状態,実行結果,ジョブの実行ごとに変化するパラメーターの値(マクロ変数および引き継ぎ情報)などを回復できます。リカバリー後のジョブネットの実行登録作業などが不要なため,障害からの復旧に掛かる時間を削減できます。
さらに,組み込みDBをリカバリーしたあとは,リカバリーした組み込みDBで動作するスケジューラーサービスが次回起動時に自動的にディザスターリカバリースタートします。このため,スケジューラーサービスはジョブ実行を抑止した状態で起動され,ジョブおよびジョブネットの状態が変更されます。ジョブ実行が抑止されているため,JP1/AJS3 - Viewまたはコマンドでジョブの状態を確認し,ジョブの状態を変更したり,再実行したりできます。ディザスターリカバリースタートした場合のジョブネットおよびジョブの状態については,マニュアル「JP1/Automatic Job Management System 3 運用ガイド 6.2.1(3)(a) マネージャーホストのJP1/AJS3サービスを再起動する場合」の,ディザスターリカバリースタートした場合のジョブネットおよびジョブの状態についての説明を参照してください。
- 注意事項
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バックアップ強化機能を有効にした場合でも,実行結果詳細や一時変更情報は回復できません。
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バックアップ強化機能を使用する環境では,リカバリーに必要な情報を組み込みDBに格納します。これによって,バックアップ強化機能を使用しない環境と比べて,組み込みDBに格納するデータ量が増加します。このため,ジョブ実行や実行登録操作などの組み込みDBの更新を伴う処理性能が低下します。JP1/AJS3の処理性能が求められるシステムの場合は,実際の環境で性能を検証した上で,バックアップ強化機能の使用を検討してください。
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(2) バックアップとリカバリーの対象
バックアップ強化機能を使用したバックアップ・リカバリーは,組み込みDBに格納されているすべてのデータが対象です。組み込みDBに格納されていないJP1/AJS3の環境設定情報などはバックアップされません。バックアップ強化機能を使用する場合は,必要に応じてシステム全体のバックアップや個別のバックアップを組み合わせるなど,組み込みDBに格納されていないデータのバックアップ方法を合わせて検討してください。
(3) バックアップ強化機能を使用するための設定
バックアップ強化機能を使用する場合,組み込みDBのセットアップ時にバックアップ強化機能を有効にする必要があります。バックアップ強化機能を有効にするための設定手順については,マニュアル「JP1/Automatic Job Management System 3 構築ガイド 21.6 JP1/AJS3の運用中に組み込みDBをバックアップ・リカバリーするための設定」を参照してください。
バックアップ強化機能は,組み込みDB単位で有効・無効を設定できます。同じ組み込みDBに複数のスケジューラーサービスをセットアップする場合は,組み込みDBとスケジューラーサービスで,機能の有効・無効を一致させてください。
バックアップ強化機能を有効に設定できる構成と,有効に設定できない構成を,次の図に示します。
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(4) バックアップ強化機能を使用したバックアップ・リカバリー手順
バックアップ強化機能を使用した組み込みDBのバックアップとリカバリーは,jajs_dbbackupコマンドとjajs_dbrestoreコマンドを使用します。バックアップとリカバリーの手順の詳細については,マニュアル「JP1/Automatic Job Management System 3 運用ガイド 2.5 バックアップ強化機能を使用したJP1/AJS3 - Managerのバックアップとリカバリー」を参照してください。
(5) バックアップ強化機能を使用する場合の検討事項
バックアップ強化機能を使用する場合,次の点を検討してください。
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バックアップ処理中は,バックアップ対象の組み込みDB上で動作するジョブの運用が停止します。バックアップを実行する間隔および時間帯は,JP1/AJS3のジョブの運用状況を考慮して決定してください。バックアップに必要な時間の目安については,「(6) バックアップに掛かる時間の目安」を参照してください。
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バックアップ処理が実行中の間,バックアップ対象の組み込みDBやバックアップ対象の組み込みDB上で動作するスケジューラーサービスについて,次に示す動作はバックアップ処理が終了するまで停止します。このため,バックアップを実行する間隔および時間帯は,JP1/AJS3の運用状況を考慮して決定してください。バックアップに必要な時間の目安については,「(6) バックアップに掛かる時間の目安」を参照してください。
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スケジューラーサービスの起動
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スケジューラーサービスに定義されているユニットを操作するコマンドの実行
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JP1/AJS3 - Viewからスケジューラーサービスへの操作
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組み込みDBを操作するコマンドの実行
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スケジューラーサービスに定義されているリモートジョブネットの実行(実行元ホスト)
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スケジューラーサービスに定義されているリモートジョブネットの実行(実行先ホスト)
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JP1/AJS3 - Web Consoleからスケジューラーサービスへの操作
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実行エージェントまたは実行エージェントグループの追加,変更,削除※
- 注※
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バックアップ対象の組み込みDB上にエージェント管理データベースが格納されている場合だけです。
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バックアップ強化機能では,組み込みDB単位でバックアップを取得します。複数の組み込みDBがある構成でJP1/AJS3を運用する場合,組み込みDBごとに,バックアップを取得するかどうかと,取得する間隔および時間帯を決定してください。
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バックアップを取得するには,バックアップする組み込みDBの容量と同等のディスクの空き容量が必要です。バックアップに必要なディスク容量の目安については,マニュアル「JP1/Automatic Job Management System 3 コマンドリファレンス 3. 通常の運用で使用するコマンド jajs_dbbackup」を参照してください。
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取得したバックアップデータは,バックアップを取得した環境と次の項目が一致する組み込みDB環境にだけリカバリーできます。
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JP1/AJS3 - Managerのバージョン
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組み込みDBのバージョン
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組み込みDBの構成
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スケジューラーサービス構成
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追加したデータベース領域(バックアップを取得した環境で,組み込みDBのデータベース領域をajsembdbaddareaコマンドで追加した場合)
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組み込みDBのシステム定義
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システム全体のバックアップを取得するなど,バックアップを取得した環境と上記の項目が一致する環境をリカバリーする手順も,合わせて検討してください。それぞれの項目を確認する方法については,マニュアル「JP1/Automatic Job Management System 3 運用ガイド 2.5.2(3) バックアップ環境の情報を取得する」を参照してください。
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バックアップ強化機能は,組み込みDBのアンロードログ運用とは併用できません。組み込みDBのアンロードログ運用の詳細については,「付録F.1 データベースのバックアップの概要」を参照してください。
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バックアップ強化機能を有効にした場合,ajsembdbbackupコマンドおよびajsembdbrstrコマンドは使用できなくなります。ajsembdbbackupコマンドの詳細については,マニュアル「JP1/Automatic Job Management System 3 コマンドリファレンス 3. 通常の運用で使用するコマンド ajsembdbbackup」を参照してください。ajsembdbrstrコマンドの詳細については,マニュアル「JP1/Automatic Job Management System 3 コマンドリファレンス 3. 通常の運用で使用するコマンド ajsembdbrstr」を参照してください。
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登録解除処理の設定を「非同期型」で運用することを強く推奨します。JP1/AJS3の新規インストール時および新規セットアップ時には,登録解除処理の設定に「非同期型」が設定されるため,変更は不要です。ただし,JP1/AJS3をバージョンアップインストールした場合には,「同期型」が設定されていることがあります。登録解除処理の設定の詳細は,マニュアル「JP1/Automatic Job Management System 3 構築ガイド 6.1.7 登録解除や保存世代数管理による世代削除処理方式の変更」および,マニュアル「JP1/Automatic Job Management System 3 構築ガイド 15.1.7 登録解除や保存世代数管理による世代削除処理方式の変更」を参照してください。なお,バックアップ強化機能が有効な環境では,データベースに格納する情報が増えるため,登録解除に掛かる時間への影響がより大きくなるおそれがあります。
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バックアップ強化機能を有効にした場合,マニュアル「JP1/Automatic Job Management System 3 構築ガイド 6.1.7(1)(b) 実行していたジョブネットの登録情報を必要とする場合」および,マニュアル「JP1/Automatic Job Management System 3 構築ガイド 15.1.7(1)(b) 実行していたジョブネットの登録情報を必要とする場合」に示す手順は使用できません。そのため,バックアップ強化機能が有効な環境で,登録解除処理の設定を「同期型」から「非同期型」に変更する場合は,コールドスタートが必要です。バックアップ強化機能を有効にする場合は,登録解除処理の設定を「非同期型」で運用することをあわせて検討してください。
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バックアップ強化機能を有効にする場合,使用するリソースを新たに見積もる必要があります。次の項目について見積もってください。
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メモリー所要量,ディスク占有量,カーネルパラメーター
メモリー所要量,ディスク占有量およびカーネルパラメーターの見積もりは,「3.2 システム性能を見積もる」を参照してください。
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データベース領域
データベース領域の見積もりは,「3.3 データベース領域を見積もる」を参照してください。
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排他制御用プールサイズ
排他制御用プールサイズの見積もりは,マニュアル「JP1/Automatic Job Management System 3 構築ガイド 23.1.1 組み込みDB稼働環境と運用方法の検討」を参照してください。
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バックアップ強化機能が有効である場合,従来のデータベースに格納していた情報のほかに,ジョブの実行ごとに変化するパラメーターの値(マクロ変数および引き継ぎ情報)などをデータベースの新たなテーブル領域(AJS2DATA2)に格納しています。これらの情報は実行したジョブの結果に依存してデータベースに格納するデータサイズが変動します。そのため,新たなテーブル領域(AJS2DATA2)の使用率を日々監視する運用を検討してください。テーブル領域の使用状況は,ajsembdbstatusコマンドで確認できます。
ajsembdbstatusコマンドの詳細については,マニュアル「JP1/Automatic Job Management System 3 コマンドリファレンス 3. 通常の運用で使用するコマンド ajsembdbstatus」を参照してください。
テーブル領域の使用率は,次に示す式で算出できます。
(Total Segment - Unused Segment) / (Total Segment) * 100
テーブル領域の使用率が60%を超えた場合,次の対応を検討してください。
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組み込みDBのメンテナンスをする
定期的にメンテナンスしていない場合は,テーブル領域の使用効率が悪くなっているおそれがあります。詳細は「6.1.2 メンテナンスする方法の検討」を参照してください。
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データベース領域を再度見積もりし拡張する
データベース領域のサイズを再度見積もり,必要に応じてajsembdbaddareaコマンドでデータベース領域を拡張してください。ajsembdbaddareaコマンドの詳細については,マニュアル「JP1/Automatic Job Management System 3 コマンドリファレンス 3. 通常の運用で使用するコマンド ajsembdbaddarea」を参照してください。
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(6) バックアップに掛かる時間の目安
バックアップ強化機能を使用したバックアップに掛かる時間は,組み込みDBが使用しているデータ領域のサイズ,JP1/AJS3の運用状況,JP1/AJS3をインストールしている環境のディスク性能などによって異なります。このため,バックアップに掛かる正確な時間は,実際にバックアップを取得して見積もってください。バックアップデータに含まれるバックアップ情報ファイルから,バックアップに掛かった時間を確認できます。バックアップ情報ファイルの詳細については,マニュアル「JP1/Automatic Job Management System 3 コマンドリファレンス 3. 通常の運用で使用するコマンド jajs_dbbackup」を参照してください。