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JP1 Version 12 JP1/Automatic Job Management System 3 設計ガイド(システム構築編)


5.2.1 バックアップとリカバリーの方法

JP1/AJS3のバックアップ・リカバリーを実施する場合,バックアップ・リカバリーの対象となるのはJP1/AJS3の動作に必要な設定情報です。バックアップ・リカバリーの目的によって,対象となるファイルやバックアップの時期が異なり,表5-2に示すような種類と特徴に分けられます。

バックアップ・リカバリーには次の方法があります。

運用の目的に合わせて,それぞれのメリット・デメリットを考慮した上で,どのような時期に,どのような単位でバックアップ・リカバリーを実施するかを検討してください。

表5‒2 JP1/AJS3のバックアップ・リカバリーの種類と特徴

バックアップ・リカバリーの種類

主な目的

バックアップの時期

メリット

デメリット

JP1/AJS3の環境設定情報

ディスク障害やファイル破壊・消失などの障害発生時の回復

設定変更時

  • JP1/AJS3の停止が不要である。

  • バックアップの取得時期や取得範囲は変更内容に応じて柔軟に対応できる。

  • 頻繁に変更される定義情報やスケジュール情報などはバックアップの時期や回数の検討が必要である。

  • ジョブネットの再登録が必要なため,業務の再開に時間が掛かる。

JP1/AJS3の定義情報

  • ジョブ・ジョブネットの定義情報

  • カレンダー・スケジュール情報

  • 実行エージェント情報

  • QUEUEジョブ・サブミットジョブの実行環境

  • ディスク障害やファイル破壊・消失などの障害発生時の回復

  • 別のマシンや別のスケジューラーサービスへの配布

ジョブネットの登録予定情報※1

ディスク障害やファイル破壊・消失などの障害発生時の回復

ジョブネットの登録時

リカバリー後にジョブネットの登録状態を一括して回復できるため,個々に再登録する必要がなく,運用再開までの作業時間を短縮できる。

即時実行で登録したジョブネットは対象外である。

システム全体

システム全体のメンテナンスや移行

  • システム全体のメンテナンス時

  • システム全体の移行時※2

一括でバックアップ・リカバリーができる。

  • メンテナンス中はJP1/AJS3の停止が必要である。

  • リカバリー後にJP1/AJS3のコールドスタートが必要である。※3

  • ジョブネットの再登録が必要なため,業務の再開に時間が掛かる。

クラスタ構成での共有ディスク

  • 共有ディスクの交換などのメンテナンス

  • クラスタシステムの移行や環境の再構築

  • 共有ディスクの障害発生時の回復

クラスタシステムのメンテナンス時

データベース(組み込みDB)

  • データベースを含むディスクの障害やファイル破壊・消失などの障害発生時の回復

  • システムの移行や環境の再構築

JP1/AJS3サービスの停止を伴う設定変更やシステム全体のメンテナンス時

  • スケジューラーサービスの停止が必要である。

  • リカバリー後に,JP1/AJS3のコールドスタートが必要である。※3

  • ジョブネットの再登録が必要なため,業務の再開に時間が掛かる。

データベースを含むディスクの障害やファイル破壊・消失などの障害発生時の回復

  • 日次や週次

  • ジョブネットの登録などの運用変更時

  • JP1/AJS3の停止が不要である。

  • 一括でバックアップ・リカバリーできる。

  • リカバリー後のコールドスタートが不要である。

組み込みDBのセットアップ時に設定が必要である。

注※1

登録予定情報をバックアップ・リカバリーする場合は,ユニット定義情報も一緒にバックアップ・リカバリーする必要があります。

注※2

システム全体をバックアップ・リカバリーで移行する場合,JP1/AJS3 - Managerはホスト名が異なるホストへ移行できません。同じホスト,または同じホスト名を設定した別ホストに対して実施する場合に限り移行できます。JP1/AJS3 - Agentはホスト名が異なる別ホストへ移行できます。

どちらの場合もJP1がOSに登録している情報を含めて,ファイルの情報に対してすべて整合性が取れた状態でシステム全体のバックアップを実施し,リカバリー時はバックアップで取得したファイルなどをすべてリカバリーすることが前提です。

なお,OSのコマンドやバックアップツールを使用したシステム全体のバックアップ・リカバリーについては,使用している環境で十分に検証した上で実施してください。

注※3

JP1/AJS3をコールドスタートすると,ジョブネットの登録予定情報,およびジョブネットやジョブの実行情報は初期化されるため回復できません。

〈この項の構成〉

(1) JP1/AJS3の環境設定情報や定義情報のバックアップとリカバリー

(a) バックアップとリカバリーの対象

JP1/AJS3の環境設定情報や定義情報が記述されたファイル,およびJP1/AJS3のコマンドを使用して設定情報を出力した結果などをバックアップします。JP1/AJS3の環境設定情報や定義情報には,JP1/AJS3 - Manager,JP1/AJS3 - Agent,およびJP1/AJS3 - Viewの情報を含みます。JP1/AJS3でバックアップが必要な環境設定情報や定義情報の詳細については,「5.2.2 バックアップ対象と時期」の表5-4を参照してください。

なお,ジョブネットやジョブの定義情報,カレンダー・スケジュール情報,および実行エージェントの定義情報は,データベース(組み込みDB)に含まれます。運用に合わせて,どのような時期に,どのような単位でバックアップおよびリカバリーを実施するかを検討してください。

(b) バックアップとリカバリーの作業の流れ

バックアップ作業の流れについては,マニュアル「JP1/Automatic Job Management System 3 運用ガイド 2.2.1(1) バックアップの流れ」を参照してください。

リカバリー時は,システムの破壊状況に応じて,バックアップしておいた情報をシステムに反映します。バックアップする情報は,JP1/AJS3の動作に必要な設定情報だけのため,設定情報をリカバリーしたあとは再度,ジョブネットを実行登録する必要があります。リカバリー作業の流れについては,マニュアル「JP1/Automatic Job Management System 3 運用ガイド 2.3.1(1) リカバリーの流れ」を参照してください。

(c) バックアップとリカバリーの方法

設定情報だけを対象としたバックアップおよびリカバリーの方法については,マニュアル「JP1/Automatic Job Management System 3 運用ガイド 2.2 JP1/AJS3を使用するシステムの設定情報のバックアップ」,およびマニュアル「JP1/Automatic Job Management System 3 運用ガイド 2.3 JP1/AJS3を使用するシステムの設定情報のリカバリー」を参照してください。

(2) ジョブネットの登録予定情報のバックアップとリカバリー

ジョブネットの登録予定情報をエクスポート・インポートする機能を使用して,ジョブネットの実行登録状態をバックアップ・リカバリーできます。JP1/AJS3のシステムに障害などが発生した場合,またはシステム全体のバックアップ・リカバリーなどでJP1/AJS3サービスをコールドスタートする必要がある場合,これらの機能を使用することで運用再開までの作業を大幅に短縮できます。

ジョブネットの登録予定情報のバックアップとリカバリーは,JP1/AJS3 - Managerが対象です。詳細については,マニュアル「JP1/Automatic Job Management System 3 運用ガイド 3.4 ajsrgexport,ajsrgimportコマンドによるジョブネットの実行登録状態のバックアップ・リカバリー」を参照してください。

(3) システム全体のバックアップとリカバリー

(a) バックアップとリカバリーの方法

OSのコマンドやバックアップツールを使用して,システム全体のバックアップを実施する場合は,JP1/AJS3を停止させた状態でバックアップを実施してください。また,システム全体のバックアップからリカバリーを実施する場合は,ジョブネットの登録予定情報,およびジョブネットやジョブの実行情報を初期化する必要があるため,JP1/AJS3をコールドスタートで起動してください。手順については,マニュアル「JP1/Automatic Job Management System 3 運用ガイド 2.4 システム全体のバックアップとリカバリー」を参照してください。

(b) システム全体をバックアップ・リカバリーする場合の検討事項

システム全体をバックアップまたはリカバリーする場合,次の点を考慮して実行してください。

  • ユーザージョブの状態など,JP1/AJS3以外のデータやアプリケーションとの整合性

  • ジョブネットやジョブを,どの状態(どの時刻)に戻すのか

  • マネージャーホストとエージェントホストのどちらをコールドスタートするのか

JP1/AJS3のように,さまざまなプログラムと連携する製品では,ジョブネットやジョブの実行状態および実行結果と,ジョブとして実行したユーザージョブすべてとの整合性を確保することは非常に困難です。整合性を確保するためには,実行するユーザージョブに,さまざまな制約条件が必要になります。これでは,JP1/AJS3の本来の機能である「通常のプログラムをジョブネットに柔軟に取り込んで運用管理する」ことができなくなります。このような背景からJP1/AJS3のバックアップおよびリカバリーは,JP1/AJS3の環境設定情報や定義情報だけを対象にすることを推奨しています。

(4) クラスタ構成での共有ディスクのバックアップとリカバリー

(a) ディスク交換を目的としたバックアップ

クラスタ構成で使用する共有ディスクでは,ディスクの老朽化などによるハードウェア的な障害に備えて,ディスク交換作業が発生することがあります。その場合は,JP1/AJS3を停止させた状態で共有ディスクごとコピーしたあとで,ディスクを交換してください。

なお,共有ディスクごとバックアップおよびリカバリーする場合は,同時にローカルディスクも含めたシステム全体をバックアップおよびリカバリーする必要があります。

(b) 障害発生時に備えたバックアップとリカバリーの対象と方法

障害発生時に共有ディスクのデータを回復する目的では,「(1) JP1/AJS3の環境設定情報や定義情報のバックアップとリカバリー」に記載した情報を論理ホスト単位でバックアップしておく必要があります。

クラスタ構成で運用している場合,物理ホスト環境をバックアップおよびリカバリーするときは,実行系と待機系の両方のホストでバックアップおよびリカバリーを実施する必要があります。論理ホスト環境の場合は,実行系ホストだけでバックアップおよびリカバリーを実施します。待機系ホストでは,実行系ホストでバックアップした情報を使用してリカバリーします。

クラスタ構成の場合のバックアップの概要については,マニュアル「JP1/Automatic Job Management System 3 運用ガイド 2.2.1(2) バックアップの流れ(クラスタシステム運用の場合)」を参照してください。また,リカバリーの概要については,マニュアル「JP1/Automatic Job Management System 3 運用ガイド 2.3.1(2) リカバリーの流れ(クラスタシステム運用の場合)」を参照してください。

クラスタ構成で共有ディスクをバックアップまたはリカバリーする際,対象となるフォルダの種類については,マニュアル「JP1/Automatic Job Management System 3 構築ガイド 8.2.1(1) 共有ディスクへの共有ファイルの作成」(Windowsの場合),またはマニュアル「JP1/Automatic Job Management System 3 構築ガイド 17.2.1(1) 共有ディスクへの共有ファイルの作成」(UNIXの場合)を参照してください。

共有フォルダのバックアップとリカバリーの手順については,マニュアル「JP1/Automatic Job Management System 3 運用ガイド 2.2.3 JP1/AJS3 - Managerの設定情報のバックアップ」,およびマニュアル「JP1/Automatic Job Management System 3 運用ガイド 2.3.4 JP1/AJS3 - Managerの設定情報のリカバリー」の論理ホストの場合の手順を参照してください。

(5) データベース(組み込みDB)のバックアップとリカバリー

データベース(組み込みDB)には,スケジューラーデータベースとエージェント管理データベースがあります。スケジューラーデータベースには,ジョブネットやジョブの定義情報,カレンダーやスケジュール情報に加え,ジョブネットやジョブの実行状態,および実行結果が含まれています。エージェント管理データベースには,実行エージェント情報が含まれています。

データベース(組み込みDB)のバックアップとリカバリーは,JP1/AJS3 - Managerが対象です。データベース(組み込みDB)のバックアップおよびリカバリーには,次の方法があります。

それぞれの方法の概要を,次の表に示します。運用の目的に合わせて,それぞれのバックアップ・リカバリー方法を検討してください。

表5‒3 データベース(組み込みDB)のバックアップおよびリカバリー方法

バックアップ・リカバリーの方法

概要

注意事項

バックアップ強化機能を使用したバックアップとリカバリー

  • JP1/AJS3の運用中にバックアップを取得できる。

  • バックアップを取得した時点までデータを回復できる。

  • リカバリー後のスケジューラーサービスは,ジョブネットやジョブの実行が抑止された状態で起動する。

  • 機能を使用するために,事前にセットアップが必要である。

バックアップ中は,バックアップ対象の組み込みDB上で動作するジョブの運用が停止する。

アンロードログファイルを使用したバックアップとリカバリー(アンロードログ運用)

  • JP1/AJS3の運用中にバックアップを取得できる。

  • アンロードログファイルを使用することで,障害発生の直前までデータを回復できる場合がある。

  • リカバリー後は任意の起動モードでJP1/AJS3を起動できる。

  • 機能を使用するために,事前にセットアップが必要である。

  • 障害発生時の状況によってはバックアップ時点までしか回復できない場合がある。その場合はJP1/AJS3をコールドスタートする必要がある。

  • アンロードログファイルのメンテナンスが必要である。

システムログを使用しない運用のバックアップとリカバリー

  • バックアップ取得時はJP1/AJS3を停止する必要がある。

  • バックアップを取得した時点までデータを回復できる。

  • リカバリー時はコールドスタートが必要である。

  • セットアップ不要で実施できる。

(凡例)

−:該当なし

注※

JP1/AJS3をコールドスタートすると,ジョブネットの登録予定情報,およびジョブネットやジョブの実行情報は初期化されます。このため,これらの情報は回復できません。

バックアップ強化機能の詳細については,「5.2.5 バックアップ強化機能による組み込みDBのバックアップとリカバリー」を参照してください。アンロードログ運用およびシステムログを使用しない運用の,バックアップおよびリカバリーの詳細については,「付録F データベースの障害対策の検討」を参照してください。