8.1.1 クラスタシステムの概要

クラスタシステムは,高可用性(HA:High Availability)の実現を目的としたシステムです。処理を実行する実行系サーバと,実行系サーバに障害などが発生した場合に処理を引き継げるように待機している待機系サーバで構成します。障害発生時は,実行系サーバから待機系サーバに処理を引き継いで業務の停止を防ぎ,可用性を向上させられます。実行系サーバから待機系サーバに処理を引き継ぐ場合,データベースの情報,および運用に必要なユーザー設定プロパティファイルの情報がすべて移行されます。

この障害時に処理を引き継ぐことをフェールオーバーといいます。

クラスタシステム全体を制御するために,Windows Server 2008に搭載されているクラスタリング機能であるWSFCを使用します。WSFCは,システムが正常に動作しているかを監視し,異常を検知した場合にはフェールオーバーして業務が停止することを防ぎます。

図8-1 正常時,フェールオーバー後のアクセス

[図データ]

JP1/ITRMのようなアプリケーションがフェールオーバーできるようにするには,論理ホストで運用します。論理ホストとは,WSFCが制御する論理的なサーバのことで,論理ホストはフェールオーバーする場合の単位となります。論理ホストには,ホスト名として論理ホスト名を使い,実行系サーバから待機系サーバに引き継げる共有ディスクと論理IPアドレスを所持します。論理ホストで実行するアプリケーションは,共有ディスクにデータを格納し,論理IPアドレスで通信することで,物理的なサーバに依存しないで,フェールオーバーして実行できます。

クラスタシステムの論理ホスト環境でJP1/ITRMを運用することを,クラスタ運用といいます。

参考
  • 論理ホストという用語について
    このマニュアルでは,フェールオーバーの単位を意味する用語として論理ホストを使います。
    また,フェールオーバーの単位となる論理的なサーバを論理ホストというのに対して,物理的なサーバを物理ホストといいます。物理ホストが使うホスト名(hostnameコマンドを実行したときに表示されるホスト名)を物理ホスト名,物理ホスト名に対応したIPアドレスを物理IPアドレスといいます。また,ディスクは,ローカルディスクを使います。これらはサーバ固有のものであり,ほかのサーバには引き継げません。
  • 「~系」という用語について
    このマニュアルでは,業務を処理しているサーバを実行系サーバ,障害に備えて待機しているサーバを待機系サーバと呼びます。実行系サーバと待機系サーバは,フェールオーバーが発生するたびに入れ替わります。
    また,システム構築時や環境設定時に2つの系を区別するため,最初に実行系サーバとして起動する系を現用系,待機系サーバとして起動する系を予備系と呼びます。運用開始後,障害発生などによって実行系サーバ,待機系サーバは交代を繰り返しますが,現用系と予備系の関係は変わりません。