11.1.1 JP1/AJS3のクラスタシステムでの前提条件とサポート範囲
JP1/AJS3は,クラスタシステムでは論理ホスト環境で動作し,フェールオーバーに対応します。論理ホスト環境で実行する場合のJP1/AJS3の前提条件は,共有ディスクや論理IPアドレスの割り当て・削除・動作監視がクラスタソフトによって正常に制御されていることです。
- 注意事項
- JP1/AJS3がサポートしているクラスタソフトであっても,システム構成や環境設定によってはここで説明する前提条件を満たさない場合があります。前提条件を満たすよう,システム構成や環境設定を検討してください。
- <この項の構成>
- (1) 論理ホスト環境の前提条件
- (2) 物理ホスト環境の前提条件
- (3) JP1/AJS3がサポートする範囲
- (4) 論理ホスト名の条件
(1) 論理ホスト環境の前提条件
JP1/AJS3をクラスタシステムで使用する場合,次に示す前提条件があります。
- クラスタソフトは,次に示す2.~4.を制御できるプログラムであること。
- 実行系から待機系へ引き継ぎができる共有ディスクを使用できること。
詳細には次に示す条件を満たすこと。
- JP1/BaseおよびJP1/AJS3を起動する前に,共有ディスクが割り当てられること。
- JP1/BaseおよびJP1/AJS3を実行中に,共有ディスクの割り当てが解除されないこと。
- JP1/AJS3およびJP1/Baseを停止したあとに,共有ディスクの割り当てが解除されること。
- 実行系ノードからだけ共有ディスクをアクセスできるように,排他制御されていること。
- システムダウンなどでファイルが消えないよう,ジャーナル機能を持つファイルシステムなどでファイルを保護すること。
- フェールオーバーしてもファイルに書き込んだ内容が保証されて引き継がれること。
- フェールオーバー時に共有ディスクを使用中のプロセスがあっても,強制的にフェールオーバーができること。
- 共有ディスクの障害を検知した場合の回復処置はクラスタソフトなどが制御し,回復処置をJP1/BaseとJP1/AJS3が意識する必要がないこと。回復処置の延長でJP1/BaseとJP1/AJS3の起動や停止が必要な場合は,クラスタソフトからJP1/BaseとJP1/AJS3に起動や停止の実行要求をすること。
- 論理IPアドレスとして次に示す条件を満たすこと。
- 引き継ぎができる論理IPアドレスを使って通信できること。
- 論理ホスト名から論理IPアドレスが一意に求まること。
- JP1/BaseおよびJP1/AJS3を起動する前に,論理IPアドレスが割り当てられること。
- JP1/BaseおよびJP1/AJS3を実行中に,論理IPアドレスが削除されないこと。
- JP1/BaseおよびJP1/AJS3を実行中に,論理ホスト名と論理IPアドレスの対応が変更されないこと。
- JP1/AJS3およびJP1/Baseを停止したあとに,論理IPアドレスが削除されること。
- ネットワーク障害を検知した場合の回復処置はクラスタソフトなどが制御し,JP1/BaseとJP1/AJS3が回復処理を意識する必要がないこと。また,回復処置の延長でJP1/BaseとJP1/AJS3の起動や停止が必要な場合は,クラスタソフトからJP1/BaseとJP1/AJS3に起動や停止の実行要求をすること。
- 多重起動する場合,論理ホストごとに一つずつのIPアドレスを割り当てること。
- 論理ホスト名が,hostsファイルやネームサーバに設定され,TCP/IP通信ができること。DNS運用の場合には,FQDN形式でないホスト名を使用できること。
- 前提であるJP1/Baseが,クラスタシステムを使用できる環境であること。
上記の条件が満たされていない場合は,JP1/AJS3の動作に問題が起きることがあります。例えば,次のような問題が発生します。
- 実行系で書き込んだデータが,フェールオーバーしたときに壊れてしまう場合
JP1/AJS3でエラー・データ消失・起動失敗などの問題が発生し,正常に動作できません。
- NIC障害が発生しても回復処理がされない場合
クラスタソフトなどの制御によってNICが切り替えられるか,または他サーバへフェールオーバーするまで,通信エラーが発生しJP1/AJS3は正常に動作できません。
(2) 物理ホスト環境の前提条件
物理ホスト環境でJP1/AJS3を実行する場合,次に示す前提条件があります。また,論理ホスト環境のJP1/AJS3だけを実行する場合でも,システム環境として次に示す前提条件を満たしている必要があります。
表11-1 物理ホスト環境の前提条件
物理ホストの構成要素 | 前提条件 |
---|
サーバ本体 | - 2台以上のサーバ機によるクラスタ構成になっていること。
- 実行する処理に応じたCPU性能があること。
(例えば,論理ホストを多重起動する場合などに,対応できるCPU性能があること)
- 実行する処理に応じた実メモリー容量があること。
(例えば,論理ホストを多重起動する場合などに,対応できる実メモリー容量があること)
|
ディスク | - システムダウンなどでファイルが消えないよう,ジャーナル機能を持つファイルシステムなどでファイルを保護すること。
|
ネットワーク | - ホスト名(hostnameコマンドの結果)に対応するIPアドレスで通信が可能なこと。
(クラスタソフトなどによって通信ができない状態に変更されないこと)
- JP1/AJS3の動作中に,ホスト名とIPアドレスの対応が変更されないこと。
(クラスタソフトやネームサーバなどによって変更がされないこと)
- Windowsの場合,ホスト名に対応したNICがネットワークのバインド設定で最優先になっていること。
(ハートビート用などほかのNICが優先になっていないこと)
|
OS,クラスタソフト | - JP1/AJS3がサポートするクラスタソフトおよびバージョンであること。
- JP1/AJS3およびクラスタソフトが前提とするパッチやサービスパックが適用済みであること。
- フェールオーバーしても同じ処理ができるよう,各サーバの環境が同じになっていること。
|
(3) JP1/AJS3がサポートする範囲
論理ホスト環境でJP1/AJS3を実行する場合,JP1/AJS3がサポートする範囲はJP1/AJS3自身の動作だけです。JP1/AJS3は論理ホスト環境を制御しません。
また,前述の論理ホスト環境および物理ホスト環境の前提条件が満たされていない,または論理ホスト環境の制御に問題がある場合は,JP1/AJS3の動作に発生した問題もサポートの対象外となります。この場合は,論理ホスト環境を制御しているクラスタソフトやOSで問題に対処してください。
- 注意事項
- 自ホストで,自ホスト名からIPアドレス解決ができない環境では,ジョブ(標準ジョブ,アクションジョブ,カスタムジョブ,イベントジョブ)の実行,ジョブ実行制御のコマンド,およびキューレスジョブ実行環境のコマンドは実行できません。
- 論理ホスト名と物理ホスト名が同じ場合は,キューレスジョブ実行機能および定義内容の事前チェック機能を使用できません。
(4) 論理ホスト名の条件
論理ホスト名の条件を次に示します。
- 論理ホスト名が32バイト以内であること。
- hostsファイルやネームサーバに設定され,TCP/IP通信ができること。DNS運用の場合には,FQDN形式でないホスト名を使用できること。
- 前提であるJP1/Baseで扱える論理ホスト名であること。
詳細については,マニュアル「JP1/Base 運用ガイド」を参照してください。
論理ホスト名を指定することで,JP1/AJS3サービスの起動およびコマンドの実行が論理ホストごとにできるようになります。論理ホスト名は次のどちらかの方法で指定します。
- 環境変数JP1_HOSTNAME
- 各コマンドの論理ホスト指定オプション(通常は-hオプション)
詳細については,マニュアル「JP1/Automatic Job Management System 3 コマンドリファレンス1 2. コマンド」またはマニュアル「JP1/Automatic Job Management System 3 コマンドリファレンス2 2. セットアップコマンド」の,各コマンドの説明を参照してください。
各コマンドは,論理ホスト指定オプションが指定されていない場合,環境変数JP1_HOSTNAMEに設定された論理ホスト名を使用して実行します。なお,「JP1_HOSTNAME=""」と設定した場合は無視されます。