1.4.1 JP1/AJS3を使った業務の傾向分析

PFM - Agent for JP1/AJS3を使用してJP1/AJS3,またはJP1/AJS2のジョブやジョブネットの稼働状況に関するパフォーマンスデータを蓄積すると,JP1/AJS3,またはJP1/AJS2を使った業務の傾向を分析でき,効率のよいジョブ実行計画の立案に役立ちます。また,JP1/AJS3,またはJP1/AJS2のデータベースや作業用ディレクトリの稼働状況を蓄積することで,これらをどのタイミングでメンテナンスすればよいかがわかります。

次に,JP1/AJS3,またはJP1/AJS2を使った業務の傾向分析について具体的に説明します。

<この項の構成>
(1) ジョブ実行計画の立案に役立ちます
(2) システム拡張計画の立案に役立ちます
(3) メンテナンスタイミングが把握できます
(4) 異常発生状況の分析に役立ちます

(1) ジョブ実行計画の立案に役立ちます

JP1/AJS3,またはJP1/AJS2で新たなジョブを追加する場合,そのジョブを実行するのに適した時間帯,曜日,実行先ホストなどを検討する必要があります。検討が不十分なままジョブを追加すると,ジョブの実行が予定どおりに進まなくなるなどの現象が起こり,業務が滞るおそれがあります。

JP1/AJS3,またはJP1/AJS2のジョブの実行状況に関する情報が蓄積されていれば,過去の傾向を分析することで,効率のよいジョブ実行計画を立案できます。

PFM - Agent for JP1/AJS3では,JP1/AJS3,またはJP1/AJS2のジョブの実行状況に関する次のパフォーマンスデータを収集できます。

(a) イベント駆動型ルートジョブネットの稼働状況

起動条件を設定し,条件が成立するごとにジョブネットを起動するようなイベント駆動型の運用をしているときに,ルートジョブネットの実行頻度が高い曜日や時間帯を把握できます。

PFM - Agent for JP1/AJS3を使って,マネージャーホスト別や,スケジューラーサービス別にこの情報を収集すれば,新しいジョブの追加先を判断しやすくなります。

例えば,PFM - Agent for JP1/AJS3が提供している監視テンプレートの「Executing Root-Jobnet」レポートを使うと,ルートジョブネットの稼働状況を日単位で表示できます。表示例を次の図に示します。

図1-2 「Executing Root-Jobnet」レポートの表示例

[図データ]

この表示例では,ルートジョブネットの実行数のピークが月末であるとわかります。そのため,月末に新しいジョブを追加することを避ければ,ジョブの実行が妨げられることがなく業務を継続できると判断できます。

(b) ジョブの稼働状況

実行開始したジョブ数の傾向がわかれば,ジョブの実行頻度が高い曜日や時間帯を把握できます。

PFM - Agent for JP1/AJS3を使って,マネージャーホストごと,スケジューラーサービスごとにこの情報を収集すれば,新しいジョブの追加先を判断しやすくなります。

例えば,PFM - Agent for JP1/AJS3が提供している監視テンプレートの「Queuing Job Overview」レポートを使うと,キューイングジョブの稼働状況を時単位で表示できます。表示例を次の図に示します。

図1-3 「Queuing Job Overview」レポートの表示例

[図データ]

この表示例では,キューイングジョブ実行のピークが17:00~23:00であるとわかります。そのため,この時間帯に新しいジョブを追加することを避ければ,ジョブの実行が妨げられることがなく業務を継続できると判断できます。

また,ジョブの実行先が複数のエージェントホストであった場合,どのエージェントホストのジョブ実行数が多いかなどを把握することもできるため,新しいジョブをどのエージェントホストでどの時間に実行させるかということが判断しやすくなります。

「Queuing Job Overview」レポートをカスタマイズすると,エージェントホストごとにキューイングジョブの稼働状況を時単位で表示させることもできます。表示例を次の図に示します。

図1-4 エージェントホスト別の「Queuing Job Overview」レポートの表示例

[図データ]

この表示例では,エージェントBは比較的どの時間帯もジョブ実行数が多いことや,エージェントAは2:00~6:00にかけてジョブ実行数が多いことなどがわかります。ジョブ実行数の多いエージェントホスト,および時間帯に新しいジョブを追加することを避ければ,ジョブの実行が妨げられることがなく業務を継続できると判断できます。監視テンプレートのレポートのカスタマイズ方法については,マニュアル「JP1/Performance Management 運用ガイド」の,稼働分析のためのレポート作成について説明している章を参照してください。

(c) ジョブの滞留数と滞留時間

キューイングジョブのサブミット,およびイベントジョブの実行登録が特定の時期・時間に集中すると,ジョブが滞留し,実行開始までの滞留時間が長くなります。

キューイングジョブおよびイベントジョブの滞留時間・滞留数の傾向がわかれば,ジョブの実行頻度が高い曜日や時間帯を把握できます。

PFM - Agent for JP1/AJS3を使うと,マネージャーホスト別,スケジューラーサービス別に次の情報を収集できます。

これらの情報を分析すると,新しいジョブの追加先を判断しやすくなります。ジョブの滞留についての情報収集イメージを,次の図に示します。

図1-5 ジョブの滞留についての情報収集

[図データ]

例えば,PFM - Agent for JP1/AJS3が提供している監視テンプレートの「Event Job Stay Time」レポートを使うと,イベントジョブの平均滞留時間を日単位で表示できます。表示例を次の図に示します。

図1-6 「Event Job Stay Time」レポートの表示例

[図データ]

この表示例では,月末に実行されたイベントジョブの平均滞留時間が長く,イベントジョブ実行のピークが月末であるとわかります。そのため,月末に新しいジョブを追加することを避ければ,ジョブの実行が妨げられることがなく業務を継続できると判断できます。

また,ジョブの実行先が複数のエージェントホストであった場合,「Event Job Stay Time」レポートをカスタマイズすると,エージェントホストごとにイベントジョブの平均滞留時間を時単位で表示させることもできます。表示例を次の図に示します。

図1-7 エージェントホストごとの「Event Job Stay Time」レポートの表示例

[図データ]

この表示例では,エージェントBは比較的どの時間帯も平均滞留時間が長いことや,エージェントAは一日を通じてジョブの平均滞留時間が短いことなどがわかります。平均滞留時間の長いエージェントホスト,および時間帯に新しいジョブを追加することを避ければ,ジョブの実行が妨げられることがなく業務を継続できると判断できます。監視テンプレートのレポートのカスタマイズ方法については,マニュアル「JP1/Performance Management 運用ガイド」の,稼働分析のためのレポート作成について説明している章を参照してください。

(2) システム拡張計画の立案に役立ちます

JP1/AJS3,またはJP1/AJS2を長期にわたって安定稼働させるためには,システム構成が適切か確認して,システムの拡張計画を検討する必要があります。JP1/AJS3,またはJP1/AJS2で実行されるジョブが増えていても,システムを拡張しないで運用を続けると,リソース不足などの理由でジョブの実行が予定どおりに進まなくなるなどの現象が起こり,業務が滞るおそれがあります。

JP1/AJS3,またはJP1/AJS2のジョブネットの遅延状況に関する情報が蓄積されていれば,システム構成が適切か確認し,システム拡張計画を検討できます。

PFM - Agent for JP1/AJS3では,JP1/AJS3,またはJP1/AJS2のジョブネットの遅延状況に関する次のパフォーマンスデータを収集できます。

(a) 開始遅延および終了遅延ジョブネット数

ジョブネットの実行が特定の時期・時間に集中すると,ジョブネットが開始予定時刻に開始できなくなったり(開始遅延),終了予定時刻に終了できなくなったりします(終了遅延)。

開始遅延ジョブネット数と終了遅延ジョブネット数がわかれば,ジョブネットの遅延状況を把握できます。ジョブネット遅延数の増加傾向が見られる場合,ジョブネットの実行が多いためにリソース不足が起きているおそれがあります。

PFM - Agent for JP1/AJS3を使って,マネージャーホストごと,スケジューラーサービスごとにこの情報を収集すれば,システム拡張の必要があるかどうかを判断しやすくなります。

例えば,PFM - Agent for JP1/AJS3が提供している監視テンプレートの「Delay Root-Jobnet Overview」レポートを使うと,遅延が発生しているルートジョブネット数の状況を日単位で表示できます。表示例を次の図に示します。

図1-8 「Delay Root-Jobnet Overview」レポートの表示例

[図データ]

この表示例では,月の後半になるとともに遅延が発生する数が増えていることがわかります。そのため,システム構成を見直し,必要であればシステム拡張をした方がよいという判断ができます。システム構成の見直しなどによって,リソース不足を起こしにくいシステムを構築できます。

(3) メンテナンスタイミングが把握できます

JP1/AJS3,またはJP1/AJS2のデータベースには,メンテナンスが必要なものがあります。メンテナンスタイミングを過ぎてもJP1/AJS3,またはJP1/AJS2を運用し続けていると,パフォーマンスの低下を招き,計画にないメンテナンスを実施しなければならないおそれがあります。

PFM - Agent for JP1/AJS3では,JP1/AJS3,またはJP1/AJS2のメンテナンスタイミングの把握に関する次のパフォーマンスデータを収集できます。

(a) データベースの使用状況

JP1/AJS3,またはJP1/AJS2のデータベースには,ISAMデータベースと組み込みDBがあり,どちらもメンテナンスが必要です。ISAMデータベースの場合,データベースのキーファイルのサイズが一定以上になると,データベースの処理性能が極端に低下するおそれがあります。また,データベースのフラグメント率や未使用領域率が高いと,データベースのサイズに対する無効な領域が増えるためにデータベースのアクセス性能が低下するおそれがあります。

注※
次のファイルのサイズは,20メガバイトを超えると性能が急激に悪化するおそれがあります。
  • スケジューラーデータベースのAJSSTAT.K01
  • ジョブ実行環境データベースのJPQJOBINFO.K02

これらのデータベースの使用状況に関する情報を蓄積することで,メンテナンスタイミングを事前に検知し,適切なメンテナンス計画を立てることができます。

例えば,PFM - Agent for JP1/AJS3が提供している監視テンプレートの「Queue ISAM Condense Indicator」レポートを使うと,ジョブ実行環境のISAMデータベースのキーファイルサイズやワークディレクトリの空き容量の状況を日単位で表示できます。表示例を次の図に示します。

図1-9 「Queue ISAM Condense Indicator」レポートの表示例

[図データ]

この表示例では,JPQJOBINFOのキーファイル2のサイズが20メガバイトを超えているため,メンテナンスが必要であるとわかります。

また,PFM - Agent for JP1/AJS3が提供している監視テンプレートの「JIDD Key Size」アラームを使用すると,ジョブ実行環境のISAMデータベースのキーファイルサイズが20メガバイトを超えたらユーザーにメールで通知する,というような運用もできます。

(b) 一時ファイル用ディレクトリの使用状況

JP1/AJS3,またはJP1/AJS2が使用する作業用ディレクトリやその配下のファイルには,メンテナンスが必要なものがあります。PFM - Agent for JP1/AJS3を使うと,次のディレクトリとファイルの使用状況についての情報を収集できます。

これらのディレクトリやファイルの使用状況に関する情報を蓄積することで,メンテナンスタイミングを事前に検知し,適切なメンテナンス計画を立てることができます。

例えば,PFM - Agent for JP1/AJS3が提供している監視テンプレートの「Scheduler Work Disk Use」レポートを使うと,ディレクトリやファイルの使用状況を時単位で表示できます。表示例を次の図に示します。

図1-10 「Scheduler Work Disk Use」レポートの表示例

[図データ]

この表示例では,一時ファイル用ディレクトリの使用領域(Tmpdir Size)が極端に増加していることがわかります。そのため,システム起動時にディレクトリ内のファイルを削除するなどのメンテナンスが必要であるとわかります。

また,標準出力ファイルと標準エラー出力ファイルに追加書きオプションを指定している場合は,ジョブを実行するごとにファイルデータが増加し,ジョブの異常終了やエージェントからマネージャーに対するデータ転送遅延の原因にもなります。そのため,追加書きオプションを指定している場合は無効にするか,または標準出力ファイルや標準エラー出力ファイルを定期的に削除・退避するといったメンテナンスをすると,ジョブの異常終了やデータ転送遅延を未然に防ぐことができます。

(4) 異常発生状況の分析に役立ちます

JP1/AJS3,またはJP1/AJS2のジョブがどのような時期・時間帯に多く異常終了しているのかがわかれば,異常終了の原因を特定しやすくなります。

PFM - Agent for JP1/AJS3を使って,マネージャーホストごと,スケジューラーサービスごと,またはエージェントホストごとにこの情報を収集すれば,異常終了ジョブ数が増加傾向にある場所を特定できます。

例えば,PFM - Agent for JP1/AJS3が提供する監視テンプレートの「Agent ErrorEnded Jobs」レポートをカスタマイズして使うと,エージェントホストごとに異常終了ジョブ数を時単位で表示できます。表示例を次の図に示します。

図1-11 「Agent ErrorEnded Jobs」レポートの表示例

[図データ]

この表示例では,エージェントAは収集期間を通じて異常終了ジョブ数が少ないことや,エージェントBでは1:08から現在にわたって異常終了するジョブ数が極端に増えていることなどがわかります。この情報を基に,ジョブ実行詳細や統合トレースログ,イベントログ(Windowsの場合),またはsyslog(UNIXの場合)を参照して,異常発生の原因を素早く特定できます。監視テンプレートのレポートのカスタマイズ方法については,マニュアル「JP1/Performance Management 運用ガイド」の,稼働分析のためのレポート作成について説明している章を参照してください。